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東京地方裁判所 昭和39年(行ウ)33号 判決

原告 春元鋳造工業株式会社

被告 品川税務署長 青木康 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

(原告)

「被告が原告に対し昭和三八年一月二八日付でした昭和三六年一〇月一日から昭和三七年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額二〇万五、四一九円、法人税額六万七、七八〇円をこえる部分および過少申告加算税の賦課決定のうち三、三八〇円をこえる部分ならびに重加算税の賦課決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

(被告)

主文と同旨の判決

第二請求の原因

一  原告は、青色申告書提出の承認を受けた法人であるが、昭和三六年一〇月一日から昭和三七年三月三一日までの事業年度の法人税につき、所得金額二二六万六、九二一円、前五年以内の繰越欠損金二三七万八、三七七円のうち当期補填金額二二六万六、九二一円、法人税額零と確定申告したところ、被告は、昭和三七年一二月二六日付で、原告の青色申告書提出の承認を取り消す(以下「第一の青色取消処分」という。)とともに、青色申告書提出の承認が取り消された以上当期利益による繰越欠損の補填は許されないとして更正および過少申告加算税の賦課決定をなし、さらに、昭和三八年一月九日付で、原告が仮受金として処理している三一万六、八七五円は、長戸商店に対する売上金の隠ぺいであり、また損金に計上している国本商店よりの仕入れ三七四万四、七四五円、潮田商店よりの仕入れ八四万三、五〇〇円、吉川商店よりの仕入れ一四万七、三一〇円は、いずれも、架空のものであるとして、その損金算入を否認し、以上のごとき原告の所為は旧法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの。以下同じ。)二五条八項所定の事由に該当するとり理由で、再度原告の青色申告書提出の承認を取り消す旨の処分(以下「第二の青色取消処分」という。)をなし、同月二五日付でさきの更正決定を取り消したうえで、同月二八日付で、右事業年度の法人所得金額を七三一万九、三五一円、税額を二七一万八、一二〇円と更正し、あわせて、過少申告加算税四万五五〇円、重加算税五七万五、七〇〇円の賦課決定(以下「本件更正および決定」という。)をなし、右更正処分および過少申告加算税の賦課決定は、その後の異議、審査においてもそのまま維持されたが、重加算税の賦課決定は、東京国税局長の審査裁決によつて三一万四、四〇〇円の限度において取り消された。

二  しかし、本件更正および決定は、次に述べる理由によつて違法である。

(1)  第一の青色取消処分は、その通知書に処理番号、処理年月日、処分庁である被告の押印等を欠いていて当然無効ではあるが、権限ある機関によつてその無効が確認されていないため、一応有効なものとして存続しているのであるから、これを取り消さずに重ねてなされた同一内容の行政処分たる第二の青色取消処分は、法律上何らの意味をも有しない処分であるというべきである。仮りに、右の主張が容れられないとしても、第二の青色取消処分がその理由として挙示する売上金を仮受金として処理したという違法は、単なる経理上の過誤にすぎないものであり、また、架空の仕入れ計上の点は、被告の誤認であつて、真実河本商店から同額の仕入れをしたのを同店の申入れによつて前記のような架空の国本商店、潮田商店、古川商店なる仕入先名義を使用して処理したまでであり、いずれも、旧法人税法二五条八項所定の事由に該当しないものであるから、第二の青色取消処分は、当然無効である。かように、第二の春色取消処分が無効である以上、これが有効であることを前提としてなされた本件更正および決定は、理由の付記を欠き、また、繰越欠損の損金算入を否認した点において、違法たるを免かれない。

(2)  仮りに第二の青色取消処分が有効であるとしても、原告の前記事業年度の所得金額は、被告において否認した仮受金三一万六、八七五円と原告の確定申告に係る所得金額二二六万六、九二一円の合計二五八万三、七九六円から、前記前五年以内の繰越欠損金二三七万八、三七七円を控除した二〇万五、四一九円であり、その法人税額は六万七、七八〇円にすぎない。

そこで、原告は、本件更正および決定のうち、所得金額二〇万五、四一九円、法人税額六万七、七八〇円をこえる部分および過少申告加算税三、三八〇円をこえる部分ならびに重加算税の取消しを求める。

なお、第二の青色取消処分が確定したことは、認める。

第三被告の答弁

原告主張の請求原因事実中、所得の隠ぺいおよび架空の仕入れが存在しないことは否認、その余の主張事実はすべて認める。

第一の青色取消処分が原告主張のごとき理由によつて無効であつたため、被告は、あらためて第二の青色取消処分をしたのであるが、該処分は、原告の不服申立てがないまま確定するにいたつた。また、本件更正および決定はすべて、被告において否認した隠ぺい仮受金額三一万六、八七五円、架空仕入金額四七三万五、五五五円および当期利益による繰越欠損補填金額二二六万六、九二一円を合算した七三一万九、三五一円が原告の本件係争事業年度の所得金額であると認定し、これを基礎としてなされたものである。

第四証拠関係〈省略〉

理由

原告が青色申告審提出の承認を受けた法人であつて昭和三六年一〇月一日から昭和三七年三星三一日までの事業年度の法人税につき、所得金額二二六万六、九二一円、繰越欠損の当期補填金額二二六万六、九二一円、法人税額零と確定申告したとこる、被告が昭和三七年一二月二六日付で原告の青色申告書提出の承認を取り消し(第一の青色取消処分)て、更正および過少申告加算税の賦課決定をなし、さらに、昭和三八年一月九日付で、再度原告の青色申告書提出の承認を取り消し(第二の青色取消処分)、同月二五日付でさきの更正、決定を取り消してから、同月二八日付で、右事業年度の法人所得金額を七三一万九、三五一円、税額を二七一万八、一二〇円と更正し、あわせて過少申告加算税四万五五〇円、重加算税五七万五、七〇〇円の賦課決定(本件更正および決定)をなし、右重加算税の賦課決定は後に東京国税局長の審査裁決によつて三一万四、四〇〇円の限度において取り消されたことは、当事者間に争がなく、また、本件更正および決定は、いずれも被告の否認に係る隠ぺい仮受金額三一方六、八七五円、架空仕入金額四七三方五、五五五円、当期利益による繰越欠損補填金額二二六万六、九二一円を合算した七三一万九、三五一円が原告の右事業年度の所得金額であるとの認定のもとになされたものであることは、原告の明らかに争わないところである。

原告は、まず、右第二の青色取消処分が当然無効であるとし、そのことを前提として、本件更正および決定の違法を主張する。しかし、仮りに右青色取消処分に原告の挙示することく、同一内容の行政処分が二重に行なわれたという瑕疵や記帳に係る損金を益金と誤認したという瑕疵があるとしても、これらの瑕疵は、それを個別的にみた場合はもとより、綜合的にみた場合においても、単に処分取消しの事由たるにとどまり、処分を当然無効たらしめるものではないというべきであり、しかも、右青色取消処分が原告の不服申立のないまま確定したことは原告の認めて争わないところであるから、原告の右主張は、すでに前提そのものにおいて失当であるというべきである。

次に、原告は、第二の青色取消処分が違法でないとしても、原告の係争事業年度の所得金額は二〇万五、四一九円、法人税額は六万七、七八〇円にすぎないので、本件更正および決定は右の金額を超える限度において違法たるを免かれないと主張する。しかし、原告が仮受金として処理している三一万六、八七五円が長戸商店に対する売上金であつて益金に計上されるべきものであることは、原告の自認するところであり、また、原告が国本商店、潮田商店および古川商店からの仕入れとして処理している合計四七三万五、五五五円が架空の仕入れであることは、〈証拠省略〉および本件弁論の全趣旨に徴して明らかであり、右認定と抵触する〈証拠省略〉は前掲各証拠と対比してたやすく措信し難く、他に該認定を覆えすに足る的確な証拠はない。さらに、法人所得の計算上繰越欠損を損金に算入することができるのは青色申告書提出の承認を受けた法人に限られる(法九条五項参照)ところ、原告の青色申告書提出の承認が本件係争事業年度において取り消されたことは、前段叙説のとおりであるから、被告が繰越欠損金二二六万六、九二一円を損金に算入してこれを同額の当期利益から控除した原告の計算を否認したことは、相当であるというべきである。

されば、本件更正および決定には原告主張のごとき違法はなく、原告の請求は、理由がないのでこれを棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆 渡辺昭 斉藤清實)

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